認知能力と非認知能力
非認知能力とは、人間の能力の中で、知能などの認知能力以外の部分を指します。
つまり、IQのように客観的には測定できない能力のことです。
この概念は、近年、欧米を中心として世界中で注目され始めています。
非認知能力とは、具体的には、
- 自分はこれができる、やろう、という気持ちになる『自己効力感』と『自信』
- 目の前の誘惑に負けず、長期的な目標を優先する『自己抑制力』
- 他者と協力して目的を遂行したり、他者の気持ちに寄り添うことができる『協調性』と『共感性』
- 失敗に負けず、粘り強くひとつのことに取り組む『忍耐力』
- 積極的に他者とかかわる『社交性』
- 未知のものに興味を抱く『好奇心』
などを指します。本当はもっと細かく分けられていて、種類もたくさんありますが、重要なのは上に挙げたものかもしれません。
パーソナリティ、つまり個人の性格まで含めて考えてしまうと、性格とははたして能力に含まれるのか…なんていうふうに、線引きが難しくなってきます。
さらに、認知能力については、高ければ高いほどよいと考えられますが、非認知能力はそうではない、という難しさがあります。
たとえば、『自己抑制力』があまりにも強いと、自分の要求を極端に抑え込んで、必要な自己主張ができない場面があるかもしれません。
また、根拠のない『自信』が肥大化すると、非現実的な目標にばかりチャレンジしてしまうかもしれません。
そして、『社交性』ばかりが突出すると、“ここは内向的であったほうがよい”という場面で状況が読めず、不必要な失敗を繰り返してしまうかもしれません。
このように考えると、非認知能力は、高ければよいというものでもなさそうです。
ただ、上に挙げた非認知能力と呼ばれるものを十分に持っていることが、人生をよりよく生き抜くために大切であることは、私たち皆が知っているわけです。
従来、世界では、特に日本においては、学力などの認知能力が重視されてきました。『学歴主義』という社会的傾向はその表れだといえるでしょう。
幼い頃から受験戦争の渦中に身を置き、さまざまな困難を乗り越え、よりレベルが高い大学に進学し、そして福利厚生がしっかりした一流企業に就職する。
そのためには、幼少時からの準備と積み重ねが肝要であると、早期からの学習の必要性が説かれてきたのはご存知のとおりです。
そして、非認知能力といわれる部分は、認知能力に比べると、それほど重視されてきませんでした。
ここにはさまざまな理由があるでしょうが、その1つとして、“客観的に測定できない(数値化できない)”という理由があったように思います。
しかし、子どものIQを高めるための早期の介入が、必ずしもその子どもの人生を有利なものにするわけではない、という研究が注目されるようになってきました。
むしろ、非認知能力の高さが、その子どもの将来の社会的成功につながる、という研究結果が報告されています。
子どものIQを高めるための介入は、確かに効果的です。しかし、それは一時的なものであって、生涯ずっと続くものではない。
むしろ就学後に急速に効果が失われ、しばらくすると、IQを高める介入をされていない子どもとの差がなくなってくる、ということがわかってきたんです。
それよりも、非認知能力を伸ばすことで、自己効力感や粘り強さを育み、認知能力を高めるための下地を作る方がよいのではないか。
そういった考え方が、現代では主流となっているように感じます。
なぜなら、非認知能力の高さが、結果として認知能力の高さにつながることはあっても、その逆はない、ということが研究から明らかになってきたからです。
非認知能力と、IQを測定する知能検査
私は、これまでに仕事で多くのお子さんたちとかかわり、お子さんの能力について親御さんの相談に乗ってきました。
しかしその一方で、IQや能力の高さがその子の人生の豊かさに直結するわけではない、ということを常々肌で感じてきました。
そして今では、人間には、IQ検査のようなものでは測定できない部分が多くあり、その『測定できない部分』こそが大切である、と考えるようになりました。
しかし、IQ検査がいわゆる『知能』という“量”だけを測定するものであり、その他の“質”的な部分をみることはできない、という考えは誤りだと思います。
IQ検査であっても、視点を変えてみていくことで、そのお子さんのいろいろな部分がわかるからです。
ただし、その視点は、多くのお子さんと接してきた『経験』から生まれたものであるといえるかもしれません。
Apilaと非認知能力
冒頭で書いたように、非認知能力はとても大切な概念です。
人生に大きく、長く影響してくると考えてよいでしょう。
そしてApilaでは、非認知能力と呼ばれるものの中でも、『自己効力感』をもっとも大切なものとして考えています。
この『自己効力感』とは、“自分はこれができる”という自信や、“やってみよう”という意欲に関係してくる部分です。
つまり、数ある非認知能力といわれるものの中でも、基本中の基本となる部分なわけですね。
ここがしっかり育っていないと、そもそも“何かやってみよう”という意欲が湧きません。
そうすると、何かに挑戦して成功体験を積み重ねることも、失敗してそこから多くを学ぶこともできないわけです。
お子さんにかかわる周囲の大人が、この非認知能力を意識しているのと、していないのでは、大きい差が出てくると思います。
Apilaでは、検査においても、継続サポートにおいても、常にこれを意識して、お子さんの非認知能力を育み、それがお子さんの今後にとって、よい影響を与えることを目指しています。
参考文献:2017年 国立教育政策研究所『非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する報告書』