目次
1.自閉症スペクトラム障害の特徴
2.自閉症スペクトラム障害の分類
3.就学後から成人期の自閉症スペクトラム障害
4.自閉症スペクトラム障害への対応
1.自閉症スペクトラム障害の特徴
自閉症スペクトラム障害とは、発達障害に含まれる代表的な障害の1つです。
Autism Spectrum Disorderを頭文字をとって、『ASD』と呼ばれたりします。
そして疫学的には、女児よりも男児が圧倒的に多く、約4倍いるといわれています。
自閉症スペクトラム障害のお子さんには、
- こだわりが強い
- 興味を持つ対象が限定されている
- いつも通りを好み、急な予定変更に対応できない
- 相手と何かを共有しようとしない
- 感覚の異常がある
- しばしば言葉の遅れがある
- 視界に入ったものにすぐ注意がうつる
- 相手の気持ちを理解するのが難しい
といった特徴がみられます。
自閉症スペクトラム障害に関しては、「空気が読めない」「人の気持ちがわからない」といった部分だけがクローズアップされがちですが、このように、その他に多くの特徴があるのです。
ただし、外見からは障害の有無がわからないため、成長する過程のどこかで、周囲とのかかわりや反応に親御さんが違和感を覚え、そこではじめて明らかになる場合が多いです。
具体的には、成長の過程において、
- 視線が合いにくい
- 相手の存在を気にしていないかのように見える
- 特定の物でしか遊ぼうとしない
- 独り遊びが多い
- 友達と“ごっこ遊び”をしようとしない
- 共感の指さしが出ない
- 思い通りにならないとかんしゃくを起こす
- 見知らぬ相手や場所を過剰に警戒する
- 足の裏に過敏があり、歩きはじめが遅い
- オウム返しがある
- 目の前のものに没頭すると、声かけしても反応しない
- 偏食が激しい
- いつものルートを変えるとすぐに気づいて混乱する
- 学校や幼稚園の先生が変わると受け入れられない
- 物や自分の身体を同じパターンで動かすクセが目立つ
などの様子がみられます。
ただし、上記は比較的幼いASDのお子さんの特徴です。
就学後や、思春期以降のお子さんについては、また違った状態がみられる場合があるため、注意が必要です。
また、“見て”考えることを得意とするお子さんが多い一方で、逆に“聴いて”考えることを得意とするお子さんもいますので、自閉症スペクトラム障害イコール“視覚優位”とは、一概にはいえません。
しっかり評価してみないとわからない部分が多いといえるでしょう。
2.自閉症スペクトラム障害の分類
自閉症スペクトラム障害のスペクトラムとは、『連続体』という意味です。
これはどういうことでしょうか。
ここで、自閉症スペクトラム障害の理解をわかりやすく示した図を、下に示したいと思います。
これは、『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』をもとにイメージした図です。
健常な人から、自閉傾向が強い人まで地続きになっていて、『ここから先は障害』というような、区切りがないことがおわかりいただけると思います。
もともと、自閉症という概念があり、これは知的な遅れを伴うものでした。
しかし研究が進むなかで、知的に遅れがないにもかかわらず、自閉症と同じような特徴を示す人がたくさんいるとわかってきました。
そして、知的に遅れがなく、かつ自閉症と同じ特徴を持つ人は、DSM-Ⅳ-TRまでは高機能自閉症であるとか、アスペルガー障害と呼ばれ、広汎性発達障害といわれる障害カテゴリーに含まれていました。
しかし、上の図が示すように、自閉症の特徴は、少しある人から非常に強い人まで、
程度がさまざまであることがわかってきました。
そしてDSM-5では、上に挙げたさまざまな障害を一括して、その程度にかかわらず、『自閉症スペクトラム障害』に含めることになりました。
詳しくは、『スペクトラム(連続体)』の理解をご覧ください。
3.就学後から成人期の自閉症スペクトラム障害
小学校に入学以降の自閉症スぺトラムのお子さんは、就学前とは異なる課題に直面します。
まず、学校での勉強。そして、協調性やコミュニケーションといった、他者とのかかわりについても、就学後はより多くの場面で求められるようになってきます。
また、普通級、特別支援級、特別支援学校など、お子さんそれぞれの特性に合わせて、就学先の選択をしていく必要があります。
発達障害については、昨今では世の中に周知されてきたことがり、学校の先生にも理解のある方はたくさんいます。
しかし残念ながら、まだまだ十分な配慮がなされているはいえない場面も多いようです。
自閉症スペクトラム障害を持つお子さんの多くは、コミュニケーションを不得意としています。
相手の気持ちを考えずに発言してしまうことや、場違いな発言をしてしまうことがあるあもしれません。
そのため、学校ではいじめやからかいの対象となってしまうことがあります。
そして、周囲とうまくいかないことや、傷つき体験が、ひきこもりや不登校のきっかけとなることもあります。
また、自閉症スペクトラム障害のお子さんは、比喩や皮肉といった言葉の背景にある意味を読み取ることが、苦手な場合が多いです。
そのため、金銭にまつわるトラブルに巻き込まれることがありますので、周囲の大人がきちんとお子さんの特性を理解し、注意深く見守ってあげる必要があります。
思春期以降の自閉症スペクトラム障害のお子さんは、上記に加え、不適応行動や非行といった問題に直面します。
また、抑うつなどの二次的障害に発展することがありますので、やはり周囲の見守りが大切となります。
そして成人期の自閉症スペクトラム障害の方は、職場での不適応に直面するかもしれません。
コミュニケーションの苦手さから対人関係に困難を抱えたり、ADHDの不注意傾向を併せ持っている方は、
重大なミスを犯してしまう場面があるかもしれません。
また、自閉症スペクトラム障害の方が苦手とする部分の1つとして、実行機能(遂行機能)というものがあります。
そのため、見通しをもって計画を立てたり、その計画が本当に適しているかをスクリーニングし、必要に応じて修正することが苦手です。
そしてそのために、周囲から「使えない」などと評価されてしまうことがあります。
いずれにしても、上記の不適応が自己効力感の低下につながり、ひきこもってしまうことや、職場を転々とするようになることが多いようです。
4.自閉症スペクトラム障害への対応
自閉症スペクトラム障害に関しては、現状では根本的な治療法がありません。
これまでに、食事療法や、ワクチンが原因であるとする治療など、いたるところで根拠のない治療が行われてきた経緯がありますので、ここは十分に注意して、慎重に対処法を選んでいくべきでしょう。
ただし、落ち着きのなさや不注意がある自閉症スペクトラム障害の方に関しては、そのことに対して投薬で対処することもあります。
自閉症スペクトラム障害の対応としては、一般的には環境調整を行い、お子さんがより良く生活できるように支援することがメインとなります。
つまり、保護者をはじめとした周囲の方々が障害を理解し、お子さんが苦痛を感じないように、そして良いところを活かせるように、環境作りや対応を工夫していくことが大切なのです。
そのためには、お子さんの特性を正確に把握する必要がありますので、やはり発達検査や知能検査による評価が重要になってきます。
得意なところや不得意なところは、お子さんによって異なりますので、まずはしっかりと特性を明らかにして、それに合わせて対応を考えていくわけですね。
自閉症スペクトラム障害は、『想像』の障害であるといえます。
『相手の気持ちを“想像”して行動できない』
『相手の言葉の背景にある意味を“想像”してくみ取ることができない』
『見通しを立て、先行きを“想像”して課題遂行できない』
といった問題は、いずれもそのために生じていると考えられます。
したがって、周囲の方には、まずそのことを理解し、抽象的な言葉を避け、具体的に指示してあげるなどの対処が求められます。
自閉症スペクトラム障害には根本的な治療法がありませんが、早い段階で周囲がそのことに気づいて対処・訓練することで、健常のお子さんと同じように過ごせる場合があります(いったいどこからどこまでが『健常』なのかはわかりませんが)。
一般的に、幼いお子さんや知的に低いお子さんに対しては、応用行動分析(ABA)という訓練法や、感覚統合療法が適しています。
一方、年齢が高いお子さんや、知的に高いお子さんに対しては、個々の特性をふまえた学習支援や、ソーシャルスキルトレーニングが適しています。
また、それに加えて、やはり保護者の方がかかわり方について学んでいくことは、必須となります。
いずれにしても、客観的に評価を通して、お子さんの特性を理解して対処を考えることが、何よりも大切になります。
なお、自閉症スペクトラム障害については、各種検査とは別に、自閉傾向の程度を評価する検査もご用意しておりますので、ご予約時にオプションとしてお選びいただけます。